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十二月がおかしい――この一文から始まる記事は、2006年冬という特異な気象の季節を背景にしている。当時の東京では、十二月にもかかわらず最高気温が二〇度を超え、月間降水量も平年の四倍に達した。全国的に「暖冬」と呼ばれたが、それは単なる季節のゆらぎではなく、地球規模の気候変動の兆候として受け止められつつあった。一年前の2005年には、日本列島が厳しい寒波に襲われ、関東の鳩山町ではマイナス七度前後の日が半月も続いた。さらにその前年の2004年には、十二月に夏日を記録するという異常さ。暖冬と寒波が年ごとに交互に現れるようになった時期である。
この現象は、単なる都市のヒートアイランドではなく、太平洋と大陸の高気圧の勢力異常によるものだとされる。日本だけではなく、オーストラリアでは干ばつが深刻化し、小麦の生産が打撃を受け、アメリカのニューヨークでは一月上旬に二二度を記録するという異例の暖気が報じられた。まるで映画『デイ・アフター・トゥモロー』の世界が現実化したかのように、北半球各地で「季節の狂い」が観測され、気象庁や科学者たちは“温暖化の次の段階”を予感していた。
記事の中で引用されているスターン・レビュー（2006年10月発表）は、こうした気象の異常と経済的損失の関係を明確に提示した。報告書は「気候変動はかつてない市場の失敗である」と警告し、無策のまま進めば世界経済に甚大な損失をもたらすと予測した。これを受けてEUはすぐさま反応し、2007年初頭には「2030年までに温室効果ガスを1990年比で20％削減する」という目標を打ち出す。欧州諸国はもはや「京都議定書を守るかどうか」ではなく、「それを超える削減目標をどう実現するか」という段階に踏み出していた。
イギリスやドイツ、北欧諸国では、風力、太陽光、バイオマスといった再生可能エネルギーがすでに社会基盤として整備されつつあり、政治家たちはそれを「グリーン産業革命」と呼んだ。一方で日本は、依然として産業界の抵抗が強く、エネルギー政策の主軸は化石燃料と原子力の延命策にとどまっていた。京都議定書の6％削減義務を達成する見通しは立たず、啓発運動「チーム・マイナス6％」などのキャンペーンで国民意識の喚起を図るにとどまった。
2006年末の異常気象は、こうした政策格差を人々に“体感”させた事件でもあった。冬の東京で汗ばむような陽気を経験した多くの人々は、温暖化を科学的議論ではなく日常感覚として理解し始めた。それまで「遠い未来の問題」として語られていた地球温暖化が、身近な現実として迫ってくる転換点であった。
記事の筆致は報告や論文の堅苦しさを避け、映画や日常の気温の話題を交えて語りかけるような柔らかさがある。その語り口は、科学者の警告と市民の感覚を橋渡しするような温度を持ち、同時に日本の政策的遅れを静かに批判している。欧州が危機感を“行動”へと変えていく中、日本がまだ「認識の段階」に留まっていたという対比は、2000年代後半の環境意識の差を象徴していた。
すなわち、この「十二月がおかしい」という冒頭は、単なる季節の驚きではなく、時代そのものの転調を告げる序章であった。温暖化の兆候を“体感した最初の冬”として、2006年の異常気象は地球規模の変化を人間の実感に変えた。そこに込められた静かな警鐘は、やがて世界が直面する気候危機の序幕を、確かに告げていたのである。
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