今日のトピック010:中東代理戦争

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イスラエルの建国は、1948年5月14日のベン=グリオンの独立宣言によるものですが、その前提は前年11月29日の国連総会における〈パレスチナ分割決議〉(決議181号)です。これはイギリスの信託統治下にあったパレスチナを、アラブ人とユダヤ人の分割による国家草創の地とし、中心地のエルサレムを特別都市として共存を目指す決議でした。ユダヤ人国家を認めるという意味で、それはシオニスト寄りのものでしたが、同じ決議はパレスチナ人の国家創建をも含意するものであったため、実際に1988年にPLOが中心となってパレスチナ国家の独立を宣言した時、この決議を法的根拠として援用しています。
そればかりでなく、第三次中東戦争(1967年)での東エルサレム占領を含め、この分割案以降大幅に増大したイスラエルの占領地は、〈実効支配〉の域を出るものではなく、国際法違反だという見解が現在も(特に国際法学者の間では)通説です。これは押さえておく必要のある基本的事実で、つまり、①イスラエル国家もパレスチナ国家も、同じ国連決議を建国の根拠とし、②それにもかかわらず、イスラエルは紛争の勝利のたびに、〈実効支配〉の領土を拡張し続けているということです。その結果としてもちろん、パレスチナ難民も一方的に増大していくことになります。
アラブ側は当初、国連決議そのものを違法であると考え、国家としてのイスラエルを認めない立場をとりましたが、第四次中東戦争以降の袋小路の中で、特にエジプトのサダト大統領が模索し始めたイスラエル承認案に、ベギン首相が呼応し、カーター大統領の仲介もあって〈キャンプ・デービッド合意〉(1978年)に漕ぎつけました。この雪解けの流れは、ラビン首相、アラファト議長の〈オスロ合意〉(1993年)によって相互是認の頂点に達することになります。それは結局、当初の国連決議の再確認の意味をも持っていました。
この合意が不幸にして解体に向かった背景の複雑な事情は、また別個に詳細な検討を要すると思います。いまここではまず、1947年から1993年の半世紀近くにわたった中東紛争(の第一期)を規定する正の構造体が、国連議決181号であること、さらにその紛争の実態は、おおむね冷戦下の〈代理戦争〉の大枠に規定されていたことを確認しておきたいのです。要点をまとめておきますと、

① 第一次中東戦争においては、イスラエルはむしろソ連寄りで(東欧圏からの移民が多かった)、停戦中の武器補給はチェコ経由のもので、その後は彼我の戦局が一変してイスラエル有利に進んだことも、このことが大きく関係していた。この時はイスラエル、特にシオニスト入植者は相当に反英的だった。アラブ世界はシオニズムそのものを認めない基本方針だったので、国連にも旧宗主国列強にも対抗意識が強かった。つまり大枠は国連が仕切り、まだ代理戦争的性格は萌芽的だった。
② 第二次中東戦争(スエズ運河危機)では、この事情が一変する。イスラエルはアラブ世界との対抗において、旧植民地列強との結束を強め、英仏の軍事支援を受けながら軍事を整備した。対してナセルのエジプトははっきりとソ連の支援を受けていた。危機感をつのらせたアメリカは、静観中立からイスラエル寄りに基軸を移していく。古いタイプの連合軍(英仏イスラエル)対、新しい連合(アラブーソ連連合)というややちぐはぐな形だが、明確に代理戦争の構図が描かれ始めた。
③ 第三次中東戦争(1967年)、第四次中東戦争(1973年)は明確な冷戦下での代理戦争である。アメリカもソ連も最新式の武器を供与し、また情報戦にも積極的に参与した。そのことの副産物として、国連の仲介力、拘束力が定向的に弱化していく事態も生じた。大国のエゴの論理が国際法を蹂躙していく過程だったと総括できる。
④ 現在のイスラエル・イラン戦争においても、大枠の代理戦争の系譜は如実に認めることができる(イスラエル・アメリカ ⇔ イラン・ロシア・中国)。それはすでに〈新冷戦〉下の地政学的基軸を形成しつつある。

だいたい以上のようになると思います。
ここでさらに、この代理戦争の係争の焦点に何があるのかを考えれば、おおむね二つの中心軸が浮かび上がると思います。それは、

1.イスラエルの建国の無理:それは〈先住〉の民族を押しのける形での入植運動(シオニズム)から始まった。この背景には、さらに欧米の(そしてロシアの)根強い反ユダヤ主義、ポグロームの酷薄な歴史的災禍がある。それが欧米の平均的な民衆、知識人に、一種の〈罪の意識〉を生んだことも否定できない事実で、これが欧米のイスラエル寄りの基本姿勢の根底にある社会的記憶であり、集団の情念であることが確認できる。つまりそれはある種、〈歴史の因果〉である。
2.次にここには、それ以前からの問題として、植民地帝国主義からの「脱植民地化」の問題がある。イスラエル建国当時、アラブ世界も独立と脱植民化のただなかで、問題の位相はある意味、イスラエルと軌を一にする面もあった(イスラエルで当初根強かった反英運動等)。より中東プロパーの問題としては、それが中東固有の資源、石油利権と複雑に絡み合っていたことを確認しておかねばならない。つまりそれは脱植民化の流れの中でも、綿々として〈石油地政学〉の構図を保ち続けた(イランの石油国有化宣言に対するモサデク・クーデタ等)。イスラーム革命以降のイランに対する制裁が、石油禁輸を基軸にしてきたことも、いままたネタニヤフがイランに対する戦略爆撃を油田、精製所の破壊へと広げようとしていることも、明確にこの文脈上にある。

以上です。
代理戦争は、中東に限ったことではなく、たとえば朝鮮戦争も、ベトナム戦争も非常に大規模な代理戦争の面を確実に持っていました。その系譜がいままたこうして繰り返されつつあることを忘れてはならないと思います。

〈今日のトピック〉シリーズは、揺れ動く世界情勢の中で、特に重要な根底的事象が表面化した場合、それを概観総括することで、その根底の理解につながるような分析の糸口を見出そうとするものです。時局の大きな事件が一つの目安ですが、同時にその歴史的淵源を探る必要がある場合には、近現代史の全体への目配りも行うつもりです。そうした問題意識ですでに本動画の〈今日の哲学〉シリーズを続けてきました。そこで扱ったテーマも、時局のアド・ホックな動きにあわせて、このショート動画でまとめていくと思います。その場合は、原理論的な本動画へのリンクを動画のおしまいに貼っておくようにしますので、関心のある方はぜひそちらを御覧下さい。
いずれにせよ大変な時代になりました。脇を締め、冷静さをたもって、わたしたちの法治と生活をどう護っていくべきか、情報と経験と知恵を持ち寄ることにしましょう。

今日のトピック:中東代理戦争
分野:中東紛争・冷戦・国連・イスラエル建国・PLO
総評 :中東紛争の基軸の一つは、それが代理戦争であり続けたことだった。それは遅くとも第二次中東戦争において顕在化し、冷戦下の地政学的枠組みの中で常態化した。今現在の新冷戦状況に規定された、イスラエル・イラン戦争においても、この基本枠は継続している。代理戦争的衝突の焦点にはつねに、イスラエル建国の無理と、中東固有の石油利権をめぐる地政学の構図がある。紛争の初期において仲介機能を果たしていた国連の力は、定向的に衰退してしまった。
関連事象:代理戦争、新冷戦、イスラエル・イラン戦争、国連決議181号

関連動画:
〈アメリカ参戦〉

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