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イラン危機で高笑いの北朝鮮ーー斬首作戦の憂いなき金正恩
選択編集部
ベネズエラとイランの次に狙われるのは北朝鮮。世界中のメディアが騒ぎ立てるなか、金正恩総書記の様子は普段と変わらない。朝鮮中央通信の報道を見ただけでも「新型駆逐艦崔賢の視察」(3月5日)、「国際女性デー記念公演の観覧」(同9日)など、逃げも隠れもしない。屋外で行われた射撃大会を視察したり、駆逐艦に乗り込み洋上に繰り出したり、大胆不敵な行動が目立つ。
日米韓の情報関係筋たちは「金正恩の斬首作戦は基本的に実行不可能だ」と口をそろえる。最高指導者の動静をリアルタイムで捉えられないからだ。最高指導者が出席する「1号行事」が報道されるのは、早くとも行事の翌日だ。
北朝鮮にスパイを潜り込ませることも至難の業だ。2011年12月に金正日総書記が死亡した際、野田佳彦首相と韓国の李明博大統領(いずれも当時)は何も知らず、京都で会談していた。当時、平壌にいた、国家安全保衛部(秘密警察、現国家保衛省)幹部を父親に持つ脱北者によると、金正日氏の死亡を公表前に知っていたのは朝鮮労働党中央委員と委員候補の約250人だけだった。日米韓はこの250人に食い込めていない。
イランやベネズエラと違い、北朝鮮は核兵器を持っている。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、北朝鮮は24年時点で約50発の核弾頭を保有している。保管場所は様々だ。北朝鮮軍幹部だった脱北者は「単純な地下施設ではない。海底や湖底にも施設がある。どの施設も覚えきれない迷路のような通路の先にあった」と証言する。
「北朝鮮も、中東の混乱によるエネルギー危機に巻き込まれる」という見方も誤りだ。米国エネルギー情報局などによると、北朝鮮の1日あたりの石油消費量は約1万9千バレル。日本(約314万バレル)の0・6%に過ぎない。輸入元はロシアと中国。国連制裁で石油精製品の輸入は年間50万バレルに制限されているが、「影の船団」や中朝間のパイプラインで十分な量を確保している。
軍民両面での「特需」
経済的な混乱どころか、イランの戦乱は北朝鮮に様々な恩恵をもたらすだろう。北朝鮮は過去、イランに様々な支援をしてきた。1980年代からスカッド短距離弾道ミサイルを輸出した。ノドン中距離弾道ミサイルは、イランのシャハブ3の原型になった。イランの科学者が2006年、09年、13年の北朝鮮の核実験に立ち会った事実が、実験場付近の衛星写真や経由地の北京首都国際空港での目撃証言などから確認されている。10年3月に韓国海軍哨戒艦を魚雷で沈めて有名になったヨノ級小型潜水艇を、カディール級潜水艇として輸出している。生物化学兵器開発での協力も噂される。
米軍とイスラエル軍はイランの6千カ所以上の軍事拠点を攻撃、破壊している。イランも保有するミサイルと無人機(ドローン)を総動員して応戦している。戦乱のなか、北朝鮮がイランに軍事支援をすることは難しいが、イランの新たな最高指導者、モジタバ・ハメネイ師は徹底抗戦と報復を呼びかけている。戦後、軍備の再構築に北朝鮮の支援が不可欠になる。ノドンミサイルでも、1発あたりの輸出価格は1千万㌦とされる。破壊された軍事施設や要人宅の地下坑道の再整備にも北朝鮮の優れたトンネル掘削技術が必要だ。ロシアが占領しているウクライナ東部ドンバス地方などの復興に加え、イランの戦乱は北朝鮮に特需をもたらすことになる。
また、北朝鮮とイランは数少ないロシアへの軍事支援国でもあった。ウクライナ侵攻後、イランはドローンを、北朝鮮はミサイルや砲弾をそれぞれ支援してきた。北朝鮮は24年秋以降、ロシア・クルスク州に軍を派遣した際にドローンを使った戦術を学び、国内でドローン生産施設を整備してきた。
金正恩氏の過去の視察写真から、イスラエル製の「ハロップ」やロシア製の「ランセット」に似た小型無人機をそれぞれ生産しているとみられている。ドローン大国のイランが傷ついた今、世界の権威主義国家やテログループから北朝鮮にドローンの注文が殺到するだろう。
戦略環境も好転
北朝鮮を喜ばせるのは経済的な利益だけではない。相対的に北朝鮮を巡る戦略環境が好転しているのも間違いない。
イランを巡る戦乱で米軍を最も悩ませているのが、迎撃用対空ミサイルの欠乏だ。イランがミサイルやドローンによる攻撃を繰り返しているからだ。米軍が持つ対空ミサイルには、イージス艦から発射して大気圏の内外で迎撃するスタンダードミサイル、地上から発射する高高度ミサイル防衛システム「THAAD」、より低空で迎撃するパトリオット誘導弾がある。
イランの攻撃により、3種類のミサイルはいずれも枯渇しつつある。すでに第7艦隊(母港・横須賀)に所属する米軍イージス艦「ミリウス」と「ジョン・フィン」が中東に回された。在韓米軍からはTHAADとパトリオットがそれぞれイランを巡る戦乱に投入された模様だ。
当然、「韓国の防空能力は低下する」(韓国軍元将校)。李在明韓国大統領も3月10日、「我々は反対する考えを表明しているが、我が国の立場を完全に貫き通すことは難しい」と語らざるを得なかった。
北朝鮮は南北軍事境界線沿いに無数のミサイルや大量の多連装ロケット砲を配備している。さらに朝鮮中央通信は24年8月、新型戦術弾道ミサイルの発射装置250基を南北軍事境界線付近に配備したと報道。今年2月には韓国全域を射程に収める600ミリ大口径ロケット砲50基の贈呈式も行われた。韓国軍も中距離地対空ミサイル「天弓」の生産や最新型への更新を急いでいるが、大量に配備できたとしてもパトリオットの代替手段にしかならない。
SNSでイランの指導者を「狂ったクズども」と罵倒するトランプ米大統領も、金正恩氏に対する批判は一切控えている。米国内の世論に厭戦気分が広がるなか、北朝鮮との間で首脳会談を模索することはあっても、戦火を交える余裕はない。むしろ、中国の習近平国家主席との間で、北朝鮮の核保有の黙認で合意する可能性が高まっている。
金正恩氏は当面、キム・ジュエと呼ばれる娘の後継者教育に集中できそうだ。
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